2014年08月19日

「蚊」がいなくなっている…

 「今年は蚊に刺されない」。人々の口から、こう不思議がる声が聞かれる。大阪府が10年以上にわたり府内で蚊の種類などを調べるために捕獲している蚊の数も、近年は減少傾向にある。この夏、大阪だけでなく各地で35度を超える気温を記録。専門家によると、猛暑になると、卵を産む場所の水たまりが干上がるほか、成虫でも生命を維持することが困難になるという。かつて夏と言えば、蚊に刺されることが、花火やかき氷などとともに季節を感じさせる「風物詩」だったが、それが変わりつつあるのだろうか。(張英壽)

■「1回もありません」

 大阪ミナミの南海なんば駅前広場。喫煙所が設置され、木々や植栽もある。今月の真夏の日暮れ、集まった人たちに「最近蚊に刺されたか」と聞いてみた。

 「今年は1回も刺されていません。言われてみて、気づきました。もともとよく刺されるほうで、例年汗をかくと刺される。今年はいつもよりも汗を多くかいているのですが」

 大阪府和泉市の専門学校生の女性(44)はそう答えた。

 大阪市西成区のパート従業員の女性(54)は「何十年も前と比べたら蚊は少なくなっていると思う。刺されたら、赤くなってぷくっと膨らみができるが、歩いてる人を見ても、そんなのはない。今の蚊は弱いのかな」。大きな木が近くにあったが、「こんな木の下でも虫はいないね」と話した。

 確かになんば駅前で観察すると、行き交う薄着の人たちに、はっきりわかる蚊に刺された痕はない。植栽や木の近くに立っても、蚊は飛んでいなかった。

 このほかにも、兵庫県伊丹市の女性会社員(27)が「例年十数回刺されるが、今年は3回くらい」、大阪市の男性会社員(52)が「子供のころは刺された。いまの家は一戸建てだが、今年はあんまり刺されない」という。

■捕獲数、10年で3分の2に

 実際に蚊は減っているのか。

 大阪府は平成15年から蚊の種類などを調べるために、蚊が活動する時期に府内15~17カ所で複数回にわたり調査。調査方法や時期が異なる15年を除き、年ごとの1回あたりの捕獲数の平均値を算出すると、16年は31・61匹と最も多く、17年が30・01匹と次ぐ。これに対し、昨年の25年は21・95匹、24年は20・48匹。16~25年の10年間でほぼ3分の2に減っている。最少は20年の19・25匹だった。

 調査は捕獲装置を置き、一晩で集まった蚊の種類やウイルスを調べる。年ごとに数字はばらつきがあり、増減もしているものの、おおむね減少傾向にあるといっていい。そのはっきりした原因はわからないが、近年日本列島を襲っている猛暑が背景にあるとの説もある。

 大阪府の調査でも、1回あたりの捕獲数の平均値では「観測史上最も暑い夏」と言われた22年は前年比で減少している。21年は22・97匹だったが、22年は20・68匹となった。

 調査主体のひとつの大阪府環境衛生課の担当者は各年の調査結果について「雨や風といった気象条件に左右され、単純比較はできない」とするが、「暑く雨が降らなければ水たまりが干上がり、蚊が卵を産む場所が少なくなるということはいえる」と指摘する。

 蚊が産卵する場所は水がたまるところで、水が滞留していることが条件だ。卵がかえると、ボウフラという幼虫になる。水が流れる場所では、卵も流失してしまう。その水たまりが少なければ、当然個体数を増やせない。

 さらに担当者は20、30年の長い歳月の変化として、コンクリートやアスファルトがまちに増え、水たまりが減っていることも原因ではないかという。

■最適環境は25度

 ところで血を吸うのはメスの蚊だけで、卵を産むための行為。京都府保健環境研究所によると、オス、メスがふだん食べるのは蜜や果物の汁、樹液などで、血とはほど遠い。蚊の寿命は1カ月ほどで、卵からかえり成虫になるまでは10日ほど。繁殖に適した夏の間は、産卵と孵化(ふか)、成長が繰り返されるという。

 大阪府によると、日本で代表的な蚊は、ヒトスジシマカと、アカイエカ。ヒトスジシマカは一般に「ヤブカ」と呼ばれるまだら模様の蚊で、水が少ない環境でも幼虫は育つ。これに対し、アカイエカは「イエカ」と呼ばれ、その名の通り赤褐色の体色が特徴で、住宅や田園が残るような場所に多く、比較的水の量が多いところで幼虫が育つ。

 蚊対策を行う害虫防除技術研究所(千葉県八千代市)の白井良和所長もこうした蚊について「水たまりが減れば幼虫が減ってしまう」としたうえで、高温になると虫が死んでしまう可能性を指摘する。

 「アカイエカ、ヒトスジシマカとも最適な環境は25度前後。アカイエカは30度以上、ヒトスジシマカは35度以上になると死ぬ可能性があるが、高温になれば日陰にいく。ただ、高温が続くと長生きはできない」

 晴れの日が続き、高温となり、その影響で水たまりが減る。そうなれば、蚊にとっては生きにくい環境になるわけだ。

 今夏はどうか。

 気象庁によると、大阪市では、7月25日に37・1度の気温を記録。同26日には35・7度。8月1日には34・5度、同5日には34・7度を記録するなど厳しい暑さが続いている。

 ただ、8月7日に発表された近畿地方の1カ月予報では、「平年に比べ晴れの日が少ないでしょう」とし、平均気温は「平年並みの確率50%」。また日照時間は「平年並みまたは少ない確率ともに40%」となっている。蚊の生息にいいのか悪いのか微妙だ。

 大阪府では今年も蚊の捕獲調査をスタート。今回は15カ所で実施し、最初の6月下旬は合計453匹、2回目の7月上旬は合計512匹、3回目の7月下旬は合計512匹だった。昨年は1回目が220匹、2回目は732匹、3回目は579匹。大阪府の担当者は「捕獲にはいろんな条件があるのでこれだけで今年の傾向はなんと言えない」と説明する。

 統計からは今夏、蚊が多いか少ないか判断が難しいが、刺されるのを防ぐには対策を講じなければならない。蚊取り線香や殺虫剤などを製造し、「KINCHO」の商標で有名な大日本除虫菊(本社・大阪市西区)の広報担当者は「ハエ、蚊の殺虫剤の市場はまだまだ大きい」と指摘する一方、「ここ7、8年の傾向では、玄関などに置く虫除け商品の需要が高くなっている」と話す。



Posted by golenty at 10:54│Comments(0)
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